ひな人形や五月人形など、CMでもおなじみの伝統あるお人形屋さん「吉浜人形」。5つの店舗を構える老舗の跡取り息子として生まれた神谷さん、その道のりは決して平坦ではなかった。
人様に喜ばれることをやりたい、と決意した大学在学中に原点がある。だが当時、目指していたのはバーテンダー。バーでアルバイトを始め、プロの背中を見て本格的に取り組んだ。その結果、親の反対を受けながらも、次第に世間に認められるようになったが、大学卒業後に一変する。
「ずっと家業への反発がありました。しかし、よく考えてみると最終的に行きつくところは、吉浜人形の店員と同じだと気づいたのです。あるときは裏方に、あるときは話し相手になって人様に喜んでいただく、その舞台が酒か人形かの違いですから」。
突然訪れた転機は入社3年目。精神的な病気を患ったが、通院している最中になぜかふっきれた。「人生が劇的に変わった瞬間です。経営や仕事について難しく考えていましたが、それほど悩むことではありませんでした」と、人形屋の発する情報とお客さんの知りたい情報の差に気づいた神谷さんは、翌年コンセプトを見直し、今の経営スタイルを築いた。
吉浜人形のこだわりは独特。たとえば、会社ホームページのコンセプトは「売らないこと」。遠方のお客さんに対しても、通信販売は一切行わず、店内対応のみに徹底している。安くない一生の買い物だからこそ、購入後までサポートは欠かせない。
「お客様にとって普段は接点のない世界ですから、お祝いごとを演出・提案するのが僕らの仕事」と語る神谷さんの経営理念、それは「うれしいひなまつり」だと言う。
「“楽しい”は客観的ですが、“うれしい”は一人称。心の中からの“うれしい”をさらに引き出せる会社にしていきたいですね」。